佐々真一 本研究科物理学・宇宙物理学専攻教授、横倉祐貴 理化学研究所基礎科学特別研究員との共同研究チームは、物質を構成する粒子の「乱雑さ」を決める時間の対称性を発見しました。

 

本研究は、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」(4月8日号)に掲載され、Editors’ suggestionに選ばれました。

研究者からのコメント

「乱雑さ」と「対称性」は、物理学の基本的な概念です。 しかし、これらは性格が全く異なっており、両者の関係など想像もしませんでした。今回、偶然にも、両者が結びつくことになり、二人の著者自身が驚いています。この結果を踏まえて、発見された対称性をより深く理解し、ブラックホールや時間の矢の問題に対して、新しい研究方法を提供したいです。

概要

「乱雑さ」は、「エントロピー」と呼ばれる量によって表わされます。エントロピーはマクロな物質の性質をつかさどる量として19世紀中頃に見い出され、その後、さまざまな分野に広がりました。20世紀初頭には、物理学者のボルツマン、ギブス、アインシュタインらの理論を踏まえて「多数のミクロな粒子を含んだ断熱容器の体積が非常にゆっくり変化する場合、乱雑さは一定に保たれ、エントロピーは変化しない」という性質が議論されました。同じ頃、数学者のネーターによって「対称性がある場合、時間変化のもとで一定に保たれる量(保存量)が存在する」という定理が証明されました。

 

20世紀末、ブラックホールのエントロピーは、時空の対称性から導出できることが分かりました。この研究に触発され、今回、共同研究チームは、「ネーターの定理に従って保存量としてのエントロピーを導く対称性は何か?」という疑問を追究しました。具体的には、「ミクロな粒子の運動を記述する時間をずらしても、ずらす前の運動と同じ法則に従う」という対称性があるかを調べました。

 

その結果、量子力学のプランク定数を温度で割った分だけ時間をずらすように選んだときにのみ、そのような対称性が現れることが分かりました。そして、ネーターの定理をその対称性に適用することで得られる保存量がエントロピーと一致しました。この乱雑さを決める時間の対称性はこれまでにないものであり、どのような物質にも現れうる普遍的なものです。

 

今後、時間の対称性が導くエントロピーは、乱雑さとしてのエントロピーとは異なる方法でミクロとマクロの世界を結び付けることを可能にし、さまざまな分野に新しい視点を与えると期待できます。

図:エントロピーを導く時間の対称性の概念図
 

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